吉村元男の「景」「いのちの詩」

本の概要

「百人百景」京都岡崎 表紙

著者紹介

吉村元男 よしむら・もとお
風景造園家

1937年、京都市に生まれる。京都大学農学部林学科造園学専攻卒業。

(株)環境事業計画研究所所長、鳥取環境大学教授をへて、現在、㈱環境事業計画研究所会長、地球ネットワーク会議代表。この間、奈良女子大学、大阪大学、京都工芸繊維大学、鳥取大学などで非常勤講師を歴任。

作品に、「万博記念公園の基本設計・実施設計」(日本造園学会賞)、「鎮守の森の保存修景研究」(環境省環境優良賞共同)、「新梅田シティ」(大阪府都市景観最優秀賞、建設省都市景観大賞共同)、「白鳥公園」(名古屋市景観賞)、「都市公園での功労」(北村徳太郎賞)などがある。

著書に、『空間の生態学』、『都市に生きる方途――応用生態学の構想』、『吉村元男作品集』、『都市は野生でよみがえる――花と緑の都市戦略』、『エコハビタ環境創造の都市――環境創造の都市』、『地域発・ゼロエミッション――廃棄物ゼロの循環型まちづくり』、『森が都市を変える――野生のランドスケープデザイン』、『ランドスケープデザイン――野生のコスモロジーと共生する風景の創造』、『水辺の計画と設計』、『風景のコスモロジー』、『地域油田――環節都市が開く未来』などがある。

著者挨拶

奇跡と歓喜の庭園づくり

本書に登場する四つの作品に従事できたことは、風景造園家としてきわめて僥倖な機会に恵まれたからでした。これらの作品が今日までも美しく、いのちの輝きを増しながら、ほぼ設計当時の趣意が保たれ、維持管理され、着実に成熟していることに、それらを訪れるたびに感激し、それらのいのちに感謝の念を禁じえないでいます。

庭園は生命の集合体でできた風景で、人間の赤ちゃんと同じ出発点から始まります。その生命の集合体は、草花、樹木、昆虫、鳥、魚、そして土の中の計りしれない数のバクテリアなどのいのちが互いに絡みあって、一つのたくましい調和のリズムを生み出し、成長してゆくのです。その軌跡は、数多くの人びとの知恵と技と情熱によって導かれたものです。庭園が幾多の風月をへて俗の垢を吸い取り、浄化する力をもって成長してゆくことは、それ自体がいのちの奇跡です。万博記念公園の40年を超える奇跡に歓喜の涙が溢れます。

風景は時代とともに移り変わります。京都にある西芳寺(苔寺)の庭園は浄土を描いた楽園で、そこには金閣・銀閣のような豪華絢爛な塔頭が建立されていました。その庭園は室町政権の没落とともに朽ち果て、庭園の地表を苔で覆う美しい風景に生まれ変わりました。しかし、落葉を人間が取り除き続けないと、苔の庭は維持されません。落ち葉を掃き清めることで、人びとは人為がまったく加わっていない自然と錯覚します。美しい自然の風景は、この巧みな人間の技がつくりだす点において、里山や棚田の風景と似ています。

中くらいの自然

中くらいの自然

わたしは、中くらいの自然が好きだ。

日本人が描く自然には、大自然と小自然との間を行き来する尺度を転換するときの、ときめきの美学があるように思う。大海原の大自然には、文句なしにその偉大さを感じひれ伏してしまう。その大海原を日本庭園では、砂紋の小自然に縮めて表現する。

しかし、枯山水の庭には入り込めないもどかしさがある。百寿の梅の盆栽は、時を縮めた大自然だが、鶯はそこでは雛をかえすことができない。

目次

  • 中くらいの自然

    中くらいの自然

    森に囲まれた平坦で広い空地
    いのちを育み、つなぐ水辺と水面
    奇跡の沼が、いのちをつなぐ
    天と地をつなぐ垂直の庭園
    超高層建築の下の、新しい伝説
    つながり、むすびあい、溶け込む風景

  • 白鳥庭園の写真

    白鳥庭園

    せめぎあう水辺/水面に浮かぶ/
    汐入の庭に込められた宇宙

  • 大阪府立国際会議場葦原の庭の写真

    大阪府立国際会議場 葦原の庭

    暗闇を引き裂く/合理の葦の森

  • 新梅田シティの写真

    新梅田シティ 中自然の森

    都市の始まりの水/抱かれた地球/ビルの断層/
    九条の水滝/滝の向こうから/石畳の下の饗宴/
    四角・丸・三角/逆流の滝

既刊紹介

「百人百景」京都市岡崎の表紙

「百人百景」京都市岡崎

  • 村松 伸+
    京都・岡崎「百人百景」実行委員会 編
  • 発行 京都通信社
  • B5変判 96ページ
  • 定価 1,728円(1,600円+税)
  • 国内の発送は無料です