もくじ
はじめに(抜粋)
サルの世界を紹介します
松沢哲郎
(公益財団法人日本モンキーセンター所長、京都大学高等研究院特別教授)
『霊長類図鑑』をお届けします。2014 年に公益財団法人となった日本モンキーセンターの象徴といえる本です。
あまり意識されませんが、欧米にサルはいません。アメリカザル、ドイツザル、など聞いたことがないでしょう。霊長類つまりサルの仲間は、ヒト以外はすべて、中南米、アフリカ、インドや東南アジアの熱帯付近に分布します。冷涼な北アメリカやヨーロッパにサルはいません。欧米人にとってサルは身近な動物ではありません。日本は先進国で唯一サルのすむ国です。国名を冠したサルもニホンザルだけです。インドや中国にもサルはいますが、たくさんいるのでその1種類だけ取り出してインドザル、中国ザルとは呼べません。
日本モンキーセンターは動物園には珍しく博物館でもあります。企業の利益追求でなく、自治体の市民サービスでもない。保全や福祉や研究に心をくだく熱心なスタッフがいて、支援する人々の力で経営を成り立たせようとしています。それは、日本モンキーセンターが「霊長類学」の発祥の地だからです。京都大学の無給講師だった今西錦司さんのもとに、川村俊蔵、伊谷純一郎、河合雅雄といった学生が集まって新しい学問を創り、1956年10月17日に創立した拠点です。11年後の1967年に隣地に国立の京都大学霊長類研究所ができ、両者が連携して、世界に向けた日本のユニークな貢献である「霊長類学」を推進してきました。
大学の先生たちが共同して運営する、世界にも類例のない動物園博物館です。手探りで進む中でその役割を考えてきました。本書がその成果だといえます。サルがすむ国から発信する「サルの世界の紹介」です。同時に、サルを通して日本を見直し、「人間とは何か」を考える本です。
図鑑だから見て楽しいですが、読んでもおもしろい。へーっと思うことがたくさんあるでしょう。
発刊によせて
- 霊長類学の未来
山極壽一 - モンキーセンターの誕生
河合雅雄 - 猿を詠んだ俳人たち
尾池和夫 - 我が隣人・日本モンキーセンターと霊長類学
湯本貴和
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巻頭グラビア
- たべる
- くつろぐ・ねむる
- あそぶ・まねる・まなぶ
- そだてる・そだつ
霊長類学へのいざない
図鑑編
どこがちがう?なにがちがう?
447種のなかまたち- 霊長類の進化
- 霊長類の分布
- 霊長類の分類と名前
- 霊長類を構成するグループの特徴
- 図鑑のみかた
- キツネザルのなかま
- ロリス、ガラゴのなかま
- メガネザルのなかま
- 新世界ザル① サキのなかま
- 新世界ザル② オマキザルのなかま
- 新世界ザル③ クモザルのなかま
- 旧世界ザル① グエノンのなかま
- 旧世界ザル② ヒヒ、マカクのなかま
- 旧世界ザル③ コロブスのなかま
- テナガザルのなかま
- 大型類人猿のなかま
コラム●もっと知りたい!
- テングザル ……… 長い鼻はなんのため?
松田一希 - テナガザル ……… 森に響く歌声
打越万喜子 - オランウータン …「森の賢人」の魅力に惹かれて
林 美里 - チンパンジー …ボッソウとニンバ山を結ぶ緑の回廊
森村成樹
ヒトもサルのなかま
どこが似てる? なにがちがう?
図解編しらべてみよう! かたち・行動・社会・ヒトとのかかわり
霊長類の魅力
- 「予想外」をまるごと受け入れるフィールドワーカーの幸福感
伊谷原一 - 多彩な調査手法
霊長類学の特徴
- ①〈かたち〉と〈はたらき〉
- ② 移動のしかたの多様性
- ③ 歯のかたちと食べもの
- ④ 顔・目・表情
- ⑤ 手と足
- ⑥ しっぽ
- ⑦ おしり
- ⑧ 遺伝子とゲノム
- ⑨ 社会構造
- ⑩ コミュニケーション
チンパンジーの特徴
- ① 一日のすごしかた
- ② 道具使用と文化
ニホンザルの特徴
- ① 分布とくらし
- ② 生活史、社会、食べもの
霊長類とヒト
- ① ヒトのくらしとのかかわり
- ② 保全の取り組み
コラム●見る・聞く・語る サル学のすすめ
- ①骨を読む
高野 智 - ②霊長類の食べものと味覚の進化
早川卓志 - ③動物園でサルを観る
綿貫宏史朗 - ④動物園を学びの場にするために
赤見理恵 - ⑤アフリカの森にボノボを追って
新宅勇太
サルを知ることはヒトを知ること
サルを知るなら まずここに!日本モンキーセンターへのいざない
施設と展示のくふう
- 日本モンキーセンターのしごと
- 出版、資料収集、データベース
- 日本モンキーセンターのあゆみ
- 霊長類 全種リスト
- 索引
- 主要参考文献
おわりに
- 動物園は自然への窓
伊谷原一