WAKUWAKUときめきサイエンスシリーズ3
日本のサル学のあした 霊長類研究という「人間学」の可能性
「ご協力いただいた研究室」(PDFファイルが開きます)
内容紹介
未来のサル学者に伝えたい!
中川尚史+友永雅己+山極寿一、3人の編集を中心に50人の若手研究者たちが、サル学の魅力、バラエティ豊かな研究内容、フィールドワーク、ラボワークの醍醐味を紹介します。
図版や写真をたくさん使用し、わかりやすい日本語をつかうように心がけました。サル学に興味のある人はもちろん、サル学になじみのない人でも楽しく読めるような内容になっています。この本が未来のサル学者のきっかけになってくれることを期待しています。
大きく3つの章から構成されています。
- 第1章「霊長類の分岐と進化の系譜〈かたち・しくみ・はたらき〉」では、
形態学、系統分類学、遺伝学 - 第2章「多様な暮らしと生態の背景〈ふやす・まもる・つながる〉」では、
生態学、社会学 - 第3章「自我と知性の発達〈みる・しる・つたえる〉」では、
心理学、脳神経科学
おおむねそう分類される研究が紹介してあります。
しかし、なかには遺伝学や心理学に足場を置きながらも、野外に出かけ生態学的、社会学的な研究をおこなったり、逆に生態学に足場を置きながら、実験室で遺伝学的な分析をおこっている研究がいくつもあります。あくまで「足場」となる学問で分類しています。
本編
本書の中核的存在です。おおむね博士号を取得して数年程度の研究員(ポスドク)あるいは助教により執筆されています。博士論文のエッセンスはもちろん、論文には決して書けない研究者を志した、または研究テーマに至ったきっかけや経緯、研究を遂行していくなかでの失敗談やハプニング、あるいはブレークスルーの瞬間など試行錯誤の過程が赤裸々に語られています。
コラム
「ただいま奮闘中!」
おもに博士号取得前である大学院生が担当。もっとも若い世代ならではの調査、実験、あるいは対象種の飼育を通じた初々しい体験談が披露されてます。
「直伝! フィールド&ラボワーク術」
経験豊富な中堅以上の研究者の手による極意の直伝がなされます。
WAKUWAKUさせるしかけ
学問領域と執筆者の研究経歴に応じた記事の内容とは違った切り口で楽しんでいただけるしかけもあります。ページの右上に霊長類分類群ごとに異なるアイコンをつけています。同じアイコンのタグのページを開けてもらえば、その分類群について複数の記事を追って読むことができます。
このような方にぜひ読んでいただきたいです
- ◆こんごの進路がまったく白紙、あるいはまだ迷っている高校生の方
- ◆理学部系の学部、あるいは動物学系、人類学系の学科に入学は果たしたが、
対象動物に迷っているあなた - ◆それ以外の学部、学科に入学はしてみたものの
どうもしっくりいかないことを感じはじめている君 - ◆サル学に対しなんとなく関心はあるものの、
その実態をとらえきれていない彼女 - ◆研究生活に不安を感じている彼
そんなみなさんに本書を贈ります。
この本では、みなさんと年齢的にも比較的近い、およそ20代後半から30代前半までの若手のサル学研究者たちが、研究の魅力、醍醐味をいきいきとわかりやすく語っています。他方、中堅以上のサル学研究者は研究の極意を披露します。研究領域、研究テーマ、研究手法、対象種、調査地などの点で、多様な選択肢を用意いたしました。本書を通じて、きっとみなさん誰しもがワクワクする内容に出会っていただけれると期待しています。
編者紹介
中川尚史 なかがわ・なおふみ
京都大学大学院理学研究科生物科学専攻動物学系人類学大講座人類進化論分科 准教授、京都大学博士(理学)
研究テーマ:ニホンザルの性行動、および社会行動の地域変異
著作・論文ほか:中川尚史.2007.『サバンナを駆けるサル――パタスモンキーの生態と社会』.京都大学学術出版会.Nakagawa N, Nakamichi M, Sugiura H. (Eds.) 2010. The Japanese Macaques, Springer.
友永雅己 ともなが・まさき
京都大学大学院理学研究科生物科学専攻霊長類学・野生動物系行動神経研究部門思考言語分科〈京都大学霊長類研究所〉 准教授、京都大学博士(理学)
研究テーマ:主としてチンパンジーなどの大型類人猿を対象とした比較認知科学研究を行っている
著作・論文ほか:Tomonaga M. 2009. Relative numerosity discrimination by chimpanzees (Pan troglodytes): Evidence for approximate numerical representations. Animal Cognition 11, 43-57. Matsuzwa T, Tomonaga M, Tanaka M. (Eds.) 2006. Cognitive development in chimpanzees. Springer.
山極寿一 やまぎわ・じゅいち
京都大学大学院理学研究科生物科学専攻動物学系人類学大講座人類進化論分科 教授、京都大学博士(理学)
研究テーマ:野生霊長類とくにゴリラの社会生態から人類社会の由来を探る
著作・論文ほか:山極寿一. 2012『. 家族進化論』. 第1版. 東京大学出版会. Yamagiwa J, Basabose AK, 2009. Fallback foods and dietary partitioning among Pan and Gorilla. American Journal of Physical Anthropology 140, 739-750.
編者挨拶──中川尚史、友永雅己、山極寿一 「序言」から
日本のサル学
日本のサル学が産声をあげたのは1948年。人間以前の社会の解明をめざし、宮崎県幸島に生息する野生ニホンザルの社会学的研究からスタートした。その後、国内では、北はヒト以外の霊長類の分布北限にあたり国の天然記念物に指定されている青森県下北半島から、ニホンザルの分布南限にあたり世界自然遺産に登録された鹿児島県屋久島まで、海外では、タイのテナガザル、およびウガンダとカメルーンのゴリラを皮切りに、アフリカ、南・東南アジア、中南米に生息するさまざまな霊長類種にその対象を広げてきた。
その一方で、人間の進化を総合的に探究すべく学問領域の幅も広げ、社会学、生態学のみならず、形態学、系統分類学、心理学、生理学、脳神経科学、遺伝学などさまざまな学問分野を網羅する総合科学に発展してきた。それと並行して調査研究機材も様変わりし、フィールドノートとペンと双眼鏡による観察だけで研究をおこなっていた時代から、いまでは1億円もする次世代シークエンサーを駆使してゲノムを読み解こうとしている。
生まれて60有余年、ひとりの人間でいえば還暦も過ぎ、老年期に差し掛かっている。
発刊の趣旨
人間は世代を超えて知識の継承が可能な生きものである。サル学がここまで対象種や学問領域の幅を広げ、新しい調査研究機材を導入してこられたのも、その能力の賜物といえるだろう。
じつはわれわれ編者は、日本のサル学の黎明期を支えた諸先生方の薫陶を直接受けたことのある世代だ。その薫陶のひとつに、「専門家に向けた論文だけでなく、一般の方がたに向けた本を書く」というのがある。自然科学の分野は、いまほどではないにせよ当時においても、学術雑誌、とくに英文学術雑誌に論文を書いて“ナンボ”という風潮があっただろうと思われる。そんななかでも、学問は専門家だけのものであってはならず、広く一般社会に還元されるべきものであるし、そうすることでサル学の裾野も広がり最終的には後継者の育成にもなるという、先見の明に長けた薫陶だったのだと思う。
もちろん彼らは自らも実践し、多くの著作を残してこられた。そしてわれわれはその著作によってサル学に誘われた。こうして後継者が育っていくことを体験していたから、われわれ世代も諸先生方の影響力には及ばないことはみな自覚しながらも、それぞれが一般向けの書を通じてサル学の成果を発信してきたつもりだった。
しかしふり返ってみれば、これらの本には大きく欠けているところがあることに気づいた。いま、まさに研究の最前線にいる若手の研究者が自らの言葉で自らの研究、さらにはそこに至るまでの経緯や苦楽などを綴った本はとても少ないのだ。ましてやいまや総合科学となったサル学のさまざまな側面にふれることもできる若手中心の本に至っては皆無である。彼ら若手研究者のさらなる後継者を育てるためには、彼らによるサル学への誘いこそが必要なのではないかという結論に達し、本書を企画するに至った。
目次
第1章
霊長類の分岐と進化の系譜〈かたち・しくみ・はたらき〉
- 1-01 毛色豊かなテナガザルの系統関係をDNAで明らかに
- 1-02 匂いを感知する遺伝子からヒトの嗅覚の特異性を探る
- 1-03 食べ物の好き嫌いはわがまま? それとも……
- 1-04 霊長類の豊かな色覚を進化の視点から探る
- 1-05 食べ物と歯と顎と頭型の相関関係
――かんたんには答えのみつからない進化の方程式 - 1-06 ニホンザルの四足歩行とバイオメカニクス
- 1-07 マカクザルの進化史を化石から辿る
- 1-08 お尻のバーチャル解剖
第2章
多様な暮らしと生態の背景〈ふやす・まもる・つながる〉
- 2-01 ニホンザルの個性はなにから生まれるのか
- 2-02 DNAが解き明かすニホンザルの「恋愛」事情
- 2-03 好物のヤマモモの種をまいて歩くヤクシマザル
- 2-04 個性的なテングザルを追って、人類社会の進化の謎に迫る
- 2-05 ウガンダの森に「混群」を観にいこう
- 2-06 キツネザルの昼と夜の行動の謎を解く
- 2-07 猿害群に対峙する「サルのねーちゃん」
- 2-08 どんどん排泄して、どんどん食べるニホンザル
- 2-09 「食べる」ことより「群れる」こと
- 2-10 ヒト付けという手法──ゴリラとヒトの間で育まれる関係
- 2-11 雪深い人工林で暮らすニホンザルの秘密
第3章
自我と知性の発達〈みる・しる・つたえる〉
- 3-01 役割を分担し、協力する霊長類の自我と意思疎通
- 3-02 動物の幸せを科学する
- 3-03 ヒト、チンパンジーの前頭前野がゆっくり発達するわけ
- 3-04 マーモセットの子育て術からヒトの子育てを知る
- 3-05 ボノボとチンパンジーに協力社会の起源を探る
- 3-06 表情と音声で意思表示するサルの脳内活動をのぞく
- 3-07 「物遊び」から発達をとらえる
- 3-08 霊長類は、どうやって顔を見分けるのか
コラム
ただいま奮闘中
- 01. ゲノムから探る野生チンパンジーの世界
- 02. ラボとフィールドをつなぐホエザルの色覚研究
- 03. 尻尾は語る──いつ、なぜ類人猿は尾を失くしたのか
- 04. サルの化石を探し求めて地底探検へ
- 05. 暗視カメラが拓く「夜の生態学」
- 06. 震央にいちばん近い陸で巨大地震に遭遇したサルと私
- 07. 初めての海外でのフィールドワーク体験談
- 08. 留学生からみたニホンザル研究の意義
- 09. チンパンジーと私の微妙な関係
- 10. 腕枕して寝かしつける相手はチンパンジー
- 11. フサオマキザルの豊かな知性と感情
- 12. チンパンジーに「絵」を教わる
- 13. 実験室のチンパンジー
コラム
直伝!ラボ&フィールドワーク術
- 01. ドライときどきウェット、ところによって一時現場
- 02. 下を向いて探そう
- 03. サルの顔を覚える秘訣、教えます
- 04. 野生動物のホルモン測定と試料収集
- 05. 失敗のたびに調査用具はバージョンアップ
- 06. フィールドノートに「極意」はない
- 07. ゴリラになって人間を見つめる
- 08. 研究テーマの決め方の極意 フィールドに出よ!
そしてサルから学べ! - 09. 問いかけるチンパンジー