WAKUWAKUときめきサイエンスシリーズ6
バイオロギング2 動物たちの知られざる世界を探る
巻頭言
──荒井修亮(日本バイオロギング研究会会長)
『バイオロギング2』をお届けします
私たちバイオロギング研究会が初めての本、『バイオロギング――最新科学で解明する動物生態学』を出版したのが2009年9月。年月が経つのははやいもので、もう7年も昔のことです。当時、学生や大学院生だった若者たちの多くが、いまでは国内外各地の研究機関や大学で第一線の研究者として活躍しています。最近ではマスコミ、とくにテレビ番組で「動物目線のバイオロギング」として取り上げられる機会が多くなっているので、彼らの姿を目にした方もおられると思います。マスコミに注目されるのは、技術の発達によって、これまで得ることができなかった氷の下の海や大空からの臨場感あふれる動物目線の映像データが得られるようになったことが一因でしょう。
そもそも「バイオロギング(Bio-logging)」はバイオ(生きもの)+ロギング(記録をとる)を組み合わせた和製英語です。わかりやすい英語なので、いまでは世界各国の研究者が専門用語として使っています。しかし、意外にもこれを日本語で正確に言い表す適当な単語が見当たりません。逆に言えば、適当な言葉がなかったのでわざわざ和製英語をつくらざるをえなかったともいえますが……。
強いて訳せば、「超小型記録計・発信機装着動物行動記録」ということになるでしょうか。その実態については、本文を読んでいただくことにしましょう。この7年間でバイオロギングによって明らかになった動物たちの意外な日常生活のようすと、その動物たちをフィールドで追いかけている私たちの仲間の奮闘ぶりをお楽しみください。
目次
第1章
バイオロギングへのいざない
- 1-01 いまいるところから飛び出そう!
- 1-02 本書で紹介する動物たちとその調査地
- 1-03 バイオロギングを楽しむ極意
第2章
魚類
- 2-01 深海魚とはいえなかったキアンコウ
- 2-02 空を飛ぶ魚の力と技をデータで解明する
──トビウオの飛翔行動の計測に初めて成功 - 2-03 ジャイロセンサ搭載の最新データロガーが捉えた
魚の高速ターン - 2-04 前後自在に体をくねり、仕掛けた餌を盗み食うアナゴ
- 2-05 マグロの学校はパヤオの下
──キハダ幼魚の群れ行動 - 2-06 メバチはどれだけ深く潜ることができるのか
──日本近海のメバチの鉛直行動とその理由 - 2-07 潜るクロマグロと潜らないシイラはどう違う
- 2-08 バイオロギングが暴いた産卵期のヒラメの生態
- 2-09 世界一大きなフグは世界一長い動物を食べる
──マンボウの主食はクダクラゲだった - 2-10 大型捕食魚から稚魚を護りたい
──隠れ家をつくれば食べられない - 2-11 サクラマスは魚道遡上のスペシャリスト!?
- 2-12 ビワマスが2種類の行動パターンをとるわけ
第3章
鳥類
- 3-01 オオミズナギドリの漂流から海流を再現する
- 3-02 優雅に見えて、じつは重労働の日々
──オオミズナギドリのエネルギー消費量 - 3-03 汚染物質の源を求めて海鳥をトラッキングする
──環境科学研究の一翼をもになうバイオロギング - 3-04 海鳥の渡り行動とその個体差
- 3-05 子育てにみるハシブトウミガラスの献身的な愛
- 3-06 いかに楽に餌を確保するかに智恵を絞るウミネコ
- 3-07 アホウドリの省エネ飛行法
- 3-08 シャチを追いかけるアホウドリ
- 3-09 過酷な旅には、休憩が必要
- 3-10 「ペンギンビデオ」が明らかにした真実
第4章
哺乳類
- 4-01 音の数からイルカの個体数を推定する
- 4-02 鳴き声でイルカの種類を推定できれば
- 4-03 気のあう相手を同伴するスナメリ
──ヨウスコウスナメリの社会性を探る - 4-04 餌を食べる音から摂餌行動を特定する
- 4-05 ジュゴンの上手な逃がし方
- 4-06 なぜ仲間たちとともに潜るのか
──体を触りあうヒレナガゴンドウたち - 4-07 オットセイは記憶力で採餌行動を決める
- 4-08 太ったほうが得
──浮力変化は、アザラシの遊泳コストと採餌行動に影響をおよぼす - 4-09 子ヒツジはメエ~と鳴きながら母ヒツジを追う
- 4-10 コウモリの賢い超音波の使い方
第5章
ウミガメ
- 5-01 ウミガメは世界一の低燃費ダイバー
- 5-02 クラゲをつまみ食いするアカウミガメ
──遊泳中は視覚に頼って餌を探す - 5-03 アオウミガメの産卵は大仕事
まとめ
- おさらいとヒント
コラム
ただいま奮闘中
- 1 石垣島の船頭さんのぜいたくなお刺身
- 2 生きたヒラメの体内情報を取り出す
──必要なデータを取得してからデータロガーを装着する - 3 熱帯の雨季はどしゃ降り
- 4 流れ藻を、バイオロギングで追いかける
──漂流物に集まる生きものたち - 5 新潟県粟島のオオミズナギドリの未来
- 6 バイオロギングは「待つ」学問?
- 7 今は昔、アナログデータロガーがあった
──データが「巻物」だった時代 - 8 はじめてのタギング
- 9 野心的なプロジェクトは準備万端、データはゼロ
- 10 ひたすらアザラシのヒゲを抜く日々
- 11 非日常のなかの日常 住めば都の無人島生活
- 12 海洋生物の楽園での大捕物!